張り板とは、きものをほどいて仕立て直すときに、ほどいたきれを洗って糊づけし、それを貼りつけて乾かす板のことです。乾いたきれをばりばりはがすと、糊づけされているので縫い直したらそのままアイロンがけをして着ることができます。
誰もがきものを着た時代には、どの家庭にも張り板はなくてはならないものでした。一家の主婦にとって、夏になると家族のきものをほどいて洗い張りをし、秋に向けて仕立て直すことは大切な季節仕事だったのです。結婚するときは嫁入り道具として二枚一組で持っていきました。博物館にある古びた張り板も、小泉家のお母さん・スズさんがお嫁入りのときに持ってきたものです。この張り板を使って何十年もの間、お姑さんやお父さんや4人の娘たちのきものの洗い張りをしていたのです。およそ20年前に、スズさんのする家事を記録したDVD「昭和の家事」におさめられた「洗い張り」も、やはりこの張り板を使って撮影されました。
もう一組(正確には二組)、博物館には真新しい張り板があります。老舗デパートの色変わりしたボール紙に厳重に包まれたそれは、どういう事情からか、一度も使われることがなかった張り板です。開いてみると、木目も鮮やかなつややかな板。ほんとうにまっさらです。きれを張る楽しさがわいてくるようです。
真新しい張り板と、使い古されたスズさんの張り板と、どちらが幸せだったのでしょうか。新しく仕立て直されたきものの袖に手を通したうれしい顔、顔。それを見続けてきたスズさんの古びた張り板は役目を終えたものの美しさを見せているように思えます。
でもまっさらの張り板も初めて封を解かれることになったのです。この秋から始まる「昭和くらしの学校」の秋の定期講座初日は「洗い張りから始まるきものの再生」。ここで昭和の洗い張りを参加者に体験していただくことになっていて、このときこのまっさらの張り板を使います。
何年、何十年を経て初めて使われるのですから、張り板にとっては思いがけない出来事でしょう。あのつやつやの木目に糊づけしたきれを張っていく、その楽しさがいまから思い浮かびます。こうして回を重ねて、新しい板もしだいに自然な古めきを帯びていくのでしょう(ま)。

着物の洗い張りをやりたいのです。
ご返答をお待ちしています。
申し訳ないのですが、張り板は弊館の資料として保存しておりますので、販売・譲渡は難しいのです…。お役にたてず、恐縮です。
伸子張りの道具ははまだインターネットでも販売しているようです。張り板は一般のご家庭に眠っていたり、古道具やさんや骨董市でみかけることもあるようです。
どうか藤澤さまの洗い張りの実現が叶いますように!!